ポリリズム

 どん、と大きな音がして、バラバラと屋根が崩れ落ちる。ああ、私はこの風景を見たことがある。あれは私が生まれたばかりの頃。

 世界はもうずっと前から戦争をしている。でも世界中の人が死んだら困るから、いわゆる”大量虐殺兵器”というものは使われていない。100人の人をいっぺんに殺すのが”大量”なのかそうじゃないのかはわからない。でも、少なくとも1万人に比べたら、100人は”大量”じゃない。

 爆弾が落ちたあと、周囲はプラスチックのにおいに包まれる。彼が叫んでいる。私は叫ぶ力もない。何度爆弾が落ちても、私はこの匂いと音になれることができない。

 遠くから同じような爆弾が落ちる音がたくさんきこえる。それから銃声。悲鳴。繰り返されるリズムで、バラバラのリズムで。

 誰かが誰かのことを好きすぎて、こんな戦争はおこるの。好きすぎた誰かのことを失ってしまった誰かが、同じように誰かのことを殺すの。ずっとずっと繰り返されるの。じゃなきゃ悲しみは癒えないから。

 ねえ、お願い。誰か伝えて。私はあなたのことが好きだった。好きな人のことを失うのはとても悲しいわ。だからあなたも誰かの好きな人を奪わないで。

 お父さんは戦争に行った。お母さんがこんな風に屋根につぶされて死んだから。そして、私の上にも屋根が落ちてくる。

 ねえ、お願い。誰も誰かの好きな人を奪わないで。

ポリリズム/Perfume